(7-18)医療機関における患者虐待事案への対応
最終更新日:2026年5月29日
(7-18)医療機関における患者虐待事案への対応
令和8年1月29日 苦情申立書受理
申立ての趣旨(要約)
入院患者に対する心理的虐待疑いの通報に関し、本来の判断主体である新潟市による正式な事実確認と、虐待該当性の明確な判断が行われないまま、保健所の監査付随の聞き取りと簡易助言で終結とされた。ついては、新潟市の責任で再調査を実施し、(1)正式な事実確認、(2)虐待該当性の判断、(3)病院への行政指導(再発防止計画・研修・配置見直し・内部通報体制の整備等)、(4)通報者への結果の概要通知を求める。また、高齢者・障害者虐待防止法の観点から、「医療機関で発生した障害者/高齢者の虐待疑い」においても保健所のみで終結させない内部手続の明確化を求める。
(具体的な内容と経過)
1.虐待疑いの把握
2025年5月頃から2025年6月頃、当該病棟において、当該職員が複数の入院患者に対し、威圧的な口調での叱責、人格を傷つける発言、過度な正論の押し付けを繰り返し、患者を萎縮させ、一部の患者が涙を流して他の職員に自己否定ととれる発言をしている場面を確認。
2.院内通報と一次対応
2025年6月24日、院内手順に沿って虐待通報書を病院へ提出。病院は25日に患者の在住地であるA市へ提出。院内では当該者の担当替え等の対応が行われたが、体系的な事実確認・原因分析・再発防止は不十分。
3.行政対応
申請書を提出した次の日にA市から連絡があり、県に連絡したとの報告あり。その後、新潟県中央福祉相談センターから連絡があり、窓口がA市と新潟市のどちらになるのか調べるとのことでその場は終了。その後しばらく連絡がこないため、病院側から2回ほど相談センターに問い合わせたが、現在窓口の検討中との返答が続き、結局1ヶ月半かかり、新潟市保健所保健管理課が対応することに決まったと連絡が入る。(その期間中に患者は退院)
数日後に病院へ保健所から電話での聞き取りをしたうえ、訪問は年明けになるかもしれないと話があり。最終的には年明けの1月に病院監査のついでに患者の最近の状況確認と、病院への簡易助言を実施したのみ(通報者への事情聴取なし)で、虐待該当性の判断は行わず終結となった(2026年1月14日)。申請してから半年が経過していた。
4.手続の不備
虐待防止の運用では、通報受理後、市町村が速やかに事実確認を行い、虐待該当性を判断するのが原則。市の本来手続が経られていない。心理的虐待が軽視されているとしか思えず、障害者虐待防止法が病院内で生じた事象に対し、ほとんど意味をなさないことが示された。通報した人間が勇気を振り絞って行動に移したことに対し、あまりにも対応がずさんであると言わざるを得ない。「虐待を発見したらすぐに報告」と、常々研修や呼びかけをされてきたのに、実際に報告してみると、実態はかけ離れていた。
所管部署
保健衛生部保健所保健管理課(以下「所管課」という。)
調査の結果の要旨
申立人の主張及び所管課の説明と所管課から提出のあった資料に基づき、当審査会では以下のとおり判断し調査結果とします。
第1 事実経過
本件の事実経過は次のとおりです。
(1) 令和7年6月3日、本件病院において、病院職員が複数の入院患者に対し、威圧的な口調での叱責や人格を傷つける発言等の心理的虐待を行う事案が発生(以下「本件事案」と言う。)。
(2) 同年6月24日、申立人は、本件事案を本件病院院内の障害者虐待防止・権利擁護委員会に報告。
(3) 同月25日、本件病院は、当該入院患者の住所地であるA市に対し本件事案を通報。これを受け、A市は速やかに新潟県へ報告。
(4) 同年8月22日、新潟県において本件事案の担当窓口の特定に時間を要した結果、同日、本件事案が所管課に連絡された。これを受け、所管課は、高齢者支援課及び障がい福祉課と協議を実施した。
(5) 同月25日、本件は高齢者虐待防止法及び障害者虐待防止法の対象外と判断し、医療法第15条に基づく管理者の監督義務に関する事案として、任意の行政指導により対応する旨方針決定した。
(6) 同月26日、所管課は本件病院の療育指導室長に対し聞き取りを実施し、本件事案が院内委員会において共有されていること、本件患者に対する謝罪が行われ、同患者は7月中に退院していること、当該職員に対して指導及び配置転換がなされていること、当該職員が7月中旬以降病気休職中であること、再発防止のための研修実施が予定されていることを確認。
その上で、患者退院後のフォロー及び職員教育の徹底を指導するとともに、経緯及び対応状況に関する報告書の提出を要請。
(7) 同年9月19日、所管課が本件病院から提出された報告書を受理。内容確認の結果、通報体制の見直し及び職員研修の実施等の再発防止策が講じられていることを確認。これを踏まえ、臨時の立入検査は行わず、翌年1月の定期立入検査において現地確認を行う旨を伝えた。
(8) 令和8年1月15日、所管課は本件病院に対する定期立入検査を実施し、本件事案に関する現地確認を実施。その結果、当該患者は現在施設入所中であり退院後の訴えはないこと、虐待防止研修を同年2月に実施予定であること、当該職員は復職しているものの患者と接触しない配置が継続されていることを確認した。
その上で、引き続き職員教育及び院内体制整備により虐待防止に努めるよう指導した。
第2 当審査会の判断
1 申立人は、本件について、入院患者に対する心理的虐待が疑われる事案であるにもかかわらず、本来の判断主体である新潟市による正式な事実確認及び虐待該当性の明確な判断が行われていないと主張しています。本件は、保健所による監査に付随した聞き取り及び簡易な助言にとどまり、実質的な調査や判断がなされないまま終結されたものであり、不当であるとしています。そのため、申立人は、新潟市の責任において再調査を実施し、正式な事実確認、虐待該当性の判断、病院に対する行政指導(再発防止計画の策定、研修の実施、配置の見直し、内部通報体制の整備等)、通報者に対する結果の概要通知を行うことを求めています。
また、高齢者虐待防止法及び障害者虐待防止法の趣旨に照らし、医療機関において発生した障害者又は高齢者に対する虐待疑い事案についても、保健所のみで処理を完結させるのではなく、市として関与する内部手続を明確化すべきであると主張しています。
2 これに対し、所管課は、本件事案については、医療機関内における職員による患者への行為であることから、高齢者虐待防止法及び障害者虐待防止法の適用対象外であり、医療法第15条に基づく管理者の監督義務の問題として整理されるべきものであるとしています。そして、新潟県からの連絡を受けた後、速やかに本件病院への事実確認及び行政指導を行い、報告を受け、立入検査を通じて対応状況を確認しており、その対応は適切であったと主張しています。また、通報者への通知については、保健所における通報主体は病院であることから、申立人に対する通知義務はないとしています。
3 当審査会は、以上をふまえて、次のとおり判断致します。
まず、本件事案に対する法的枠組みについて検討すると、高齢者虐待防止法は、「高齢者虐待」を養護者及び養介護施設従事者等による行為として定義し(同法第2条第3項)、「養護者」とは、高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外のものを言うとされ(同条第2項)、「養介護施設従事者等」とは、老人福祉施設や介護保険法に基づく施設・事業に従事する者を言うとされています(同条第5項)。
また、障害者虐待防止法は、「障害者虐待」を、養護者による障害者虐待、障害者福祉施設従事者等による障害者虐待及び使用者による障害者虐待と定義し(同法第2条第2項)、「養護者」とは、障害者を現に養護する者であって障害者福祉施設従事者等及び使用者以外のものを言うとされ(同条第3項)、「障害者福祉施設従事者等」とは、障害者支援施設その他の障害福祉サービス事業等に従事する者を言うとされています(同条第4項)。
これらの定義に照らすと、医療機関において診療等の業務に従事する病院職員は、いずれの意味においても養護者には該当せず、また、本件病院も老人福祉施設や障害者福祉施設等には該当しません。したがって、本件のような医療機関内における職員による患者への行為は、高齢者虐待防止法及び障害者虐待防止法の適用対象外であり、これを前提として医療機関の管理運営に関する法令である医療法第15条に基づき対応すべきものとした所管課の判断は相当であると言えます。
次に、所管課の対応についてみると、所管課は、令和7年8月22日に本件事案を覚知した後、同日中に関係課と協議の上、医療法に基づく対応方針を決定し、同月26日には病院に対する聞き取りを実施しています。その際、院内において既に本件事案が共有され、当該職員に対する指導及び配置転換が行われていること、患者への謝罪がなされ既に退院していること、再発防止のための研修実施が予定されていること等を確認した上で、患者退院後のフォロー及び職員教育の徹底を指導するとともに、事案の経緯及び対応状況に関する報告書の提出を求めています。
さらに、同年9月19日には病院から提出された報告書を受理し、通報体制の見直しや職員研修の実施等の再発防止策が講じられていることを確認した上で、臨時の立入検査は行わず、翌年1月の定期立入検査において現地確認を行うこととしています。そして、令和8年1月15日の立入検査においては、患者のその後の状況、当該職員の配置状況及び研修実施予定等を改めて確認し、引き続き職員教育及び院内体制整備により虐待防止に努めるよう指導しています。
これらの対応状況に照らすと、所管課は、覚知後速やかに事実確認及び行政指導を行い、その後も報告徴取及び立入検査を通じて継続的に対応状況を確認しているものと認められ、その対応が著しく遅滞していたとは言えず、また、行政指導の内容及び方法についても不合理な点は認められません。
さらに、再調査の要否については、既に事実確認及び行政指導が行われ、かつ再発防止措置の実施状況も確認されていることから、所管課が改めて再調査を行う必要はないと判断したことも相当であると言えます。
以上を踏まえると、今回の所管課の対応自体に違法又は不当等と評価すべき点は認められず、後述のとおり、当審査会として、市長等への意見表明ないし提言を行う必要までは認められないものと判断します。
他方、本件では、本件病院から行政への報告及びこれに対する行政指導の事実が、院内において通報者である申立人に十分共有されていなかったことが認められます。この点については、申立人において行政が適切な対応を行っていないとの誤解を生じさせる一因となったものと言えます。
そもそも、虐待の疑いに関する通報は、被害の拡大防止や再発防止の端緒となる重要かつ不可欠なものであり、現場においてこれを指摘し通報に至ることには相応の負担や葛藤を伴うことが少なくありません。本件においても、申立人の行動は、そのような観点から十分に尊重されるべきものです。
そこで付言すると、所管課におかれては、今後は、医療機関に対し、行政指導の内容や対応状況について適切に院内共有が図られるよう、指導の在り方について更なる工夫を行うとともに、通報に関する情報の取扱いやフィードバックの在り方についても適切に周知がなされるよう努められることを望みます。
4 以上、当審査会は、本申立てについて、新潟市行政苦情審査会規則第16条第1項に基づく市長等への意見表明ないし提言を行う必要はないものと判断します。
規則第16条第1項
審査会は、苦情等の調査の結果、必要があると認める場合は、市長等に対し、当該苦情等に係る市の業務について、是正その他の改善措置(以下「是正等」という。)を講ずるよう意見を表明し、又は制度の改善を求める提言をすることができる。
このページの作成担当
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