深い精神世界
私は写真家の荒木経惟さんのお名前を今回初めて知った。経歴やいくつかの写真を見る限り彼は稀に見る、非常に個性的で精力に充ち溢れた写真家だと思った。作品を一見すると、独特な写真群は他人には真似の出来ない、追随を許さない、ある意味不思議な世界であった。しかしそこに内蔵しているものは深い精神世界であったり、時には優しい慈しみを含んでいる。そういったものが見る人の心になにかを訴えかけ感動を与えるのだと思う。世界的に評価されている荒木さんはまさに安吾賞に値する写真家であり、これからの活躍を大いに期待したい。
荒木さんの安吾賞の受賞を心から祝福します。
生真面目で純情一路
親愛なるアラーキーさま
この度は坂口安吾賞御受賞おめでとうございます。私も先年いただいた賞で、とても嬉しく晴れがましかったことを思いだし、アラーキーが受賞されたので、いよいよ私たちの縁と絆は深くなったように思い、嬉しくてなりません。
安吾は戦後の最も新鮮な革命家でした。革命と恋は青春の勲章ですが、安吾も、アラーキーも私も戸籍年齢は一向身につかず、いつまでも青春のまま、(あるいは子供のまま)なので、革命と恋はどこまでもつきまとってきます。
安吾も、アラーキーも私も、根は生真面目で純情一路です。だから、にせで塗り固めた世間からは、異様なヘン人に見られるのです。 安吾は不良に見えるマジメ人間が好きなのです。安吾も私もアラーキーも、この賞をいただいたすべての人々も同じ星からやってきた人間どうしだと信じます。だまっていても心の通じる仲間です。
どっちが先かわからないけれど、年の順なら私が一足お先だけれど、あの世に行って安吾さんに迎えられ、歓迎パーティに招かれたら、うんと呑みましょう。
アラーキーが来る時は、安吾さんのうしろに、あなたの奥さまと私が並んで、旗を振って迎えましょう。あ、そうだ、その時の旗の図案を写真で送って下さい。 お祝いにかけつけたいけれど、二年前からの約束の法話の日で行かれません。
会の皆々さまによろしく。 安吾の一粒種の綱男さんにくれぐれもよろしく。天使が人間に化けたような人物ですよ。カメラマンですからよろしく御教導下さい。私は綱男さんの乳母のつもりです。 帰ったら、今度こそ痛飲しましょうね!!
「生」と「死」を行き来する
荒木氏が撮影されてきた写真には、これは私個人の勝手な想像ですが、世の中の相反するものが隣り合わせ、若しくはそれ以上の何かを強く感じます。例えばですが、「生」と「死」であり、氏の写真は常にその世界が広がっていると思います。「死」を意識すればするほどに「生」を意識し、「生」を意識すればするほどに「死」を意識する、または行き来することによって、日々新たな道を開拓されてきたと推測させて頂いております。
私にとっては、その表現の世界がヒマラヤでの登山であり、歩む道は全く異なりますが、人生の先輩、荒木氏の安吾的な生き様を見習って、今後も活動を行いたいと思います。
きっと安吾は指名する
坂口安吾賞と聞いて、ああ、それは、アラーキーにぴったりだと思った。
アラーキーは平成の無頼派そのものだ。アラーキーがこれまでもらった数々の賞の中には、いろいろ御大層な賞も沢山あるけれど、ピッタリという意味では、これがいちばんだ。
安吾の写真といえば、林忠彦、中村正也、濱谷浩などいろんな写真家の撮ったものが有名だけど、もし安吾が生きていて、自分が撮ってもらいたい写真家を選べるとしたら、迷わずにアラーキーを指名したと思う。
皆さん、いまアラーキーは、借りてきたネコみたいにおとなしくしているかもしれませんが、間もなく祝い酒が二、三杯入ると、無頼派丸出しの男になりますが、その節はよろしく。