トップページ観光・文化・スポーツ文化・芸術安吾賞HOME>安吾賞-第7回 スペシャルメッセージ

スペシャルメッセージ

スペシャルメッセージ

瀬戸内寂聴

 会田誠さん、おめでとう

 坂口安吾は、敗戦後の絶望に打ちひしがれた日本の国民に『堕落論』を突きつけて、萎えた精神と肉体に、新鮮な刺激を与えてくれました。  北京で敗戦を迎え、翌年、引き上げてきた私はまだ二十四歳の未熟な女でした。敗戦を機に、私はそれまでの素直な優等生的生き方を捨て、自分らしく生きたいと切望していたのです。その時安吾の「堕ちよ、堕ちよ」という言葉が輝く灯となって新しい道をさし示してくれました。私は家を捨て、夫と子どもを捨て、たちまち噂の女となり非難の的となりました。しかしそこには思いもかけなかった無限の自由が待っていました。安吾の灯がずっと導き輝いてくれました。安吾は私の生涯の恩人です。どの賞よりも安吾賞をいただいた時は誇りで一杯でした。

 会田誠さんは、すでに輝かしい天才を発揮されています。「ごめんなさい」などと心にもないことを言わないで、堂々と益々天才ぶりを発揮して下さい。安吾の霊はあなたの受賞を喜んでいることでしょう。

荒木経惟

片岡真実

 人間の赤裸々な姿をえぐりだす芸術家

 会田誠はじつにつかみどころが無い。しばしば痛烈な社会的・政治的批評性を見せたかと思えば、猟奇的でエログロな作風は逆に批判の的にもなる。落書きのような作品もあれば、数年かけた大作で圧倒的な画力も披露する。絵画を中心に、彫刻、映像、漫画から小説やエッセイ、ツイッターまで多様な表現メディアを往来する。勤勉で怠け者、雄弁でシャイ、天才でお馬鹿。その一見相矛盾した散乱ぶりを俯瞰すると、会田が何か特定の主張をしているというよりは、むしろ近代化と伝統、国際性とローカリティ、村的な調和と個人主義などが複雑に絡み合った現代日本の混迷をそのまま提示しているように見える。それは、坂口安吾が「先ず裸となり、とらわれたるタブーをすて、己の真実の声をもとめよ」(続堕落論)といったように、綺麗ごとでは済まされない人間の不条理そのもの、えぐりだされた裸の姿ともいえるだろう。会田作品から受ける爽快感と不快感もそれ故だ。  

 例えば、代表作の「戦争画RETURNS」シリーズでは、戦時中に美術家が国威発揚のために描いた「戦争画」を再訪し、零戦によるマンハッタン襲撃、日本のアジア侵略、天皇制といった題材に、日本画の伝統、現代美術の様式などを重ね合わせ、今日の日本社会の基盤をなす複雑な歴史的地層を露わにした。また、震災後の大作《電柱、カラス、その他》では、倒れた電信柱の上部を舞うカラスが、肉片やセーラー服の断片を銜えているが、その風景は描かれていない地上での黙示録的な惨事を暗示する。

 今日世界では近代を牽引したパワーバランスや価値観が大きな転換期を迎え、日本もまた今後の進むべき道が根底から問われている。「大義名分だの、不義は御法度だの、義理人情というニセの着物をぬぎさり、赤裸々な心になろう、この赤裸々な姿を突きとめ見ることが先ず人間の復活の第一条件だ」(続堕落論)。終戦直後の安吾の言葉は、真実の姿を追究するその態度において、今日の会田誠にも通底している。会田誠はいま、日本が求めている芸術家であり、安吾賞受賞はまさに時宜を得たものだといえるだろう。

このページのトップへ

.

安吾賞事務局 新潟市文化スポーツ部文化政策課

〒951-8550 新潟市中央区学校町通一番町602-1 TEL : 025-226-2563 / FAX : 025-230-0450 / E-mail:bunka@city.niigata.lg.jp

Copyright © Ango Awards All Right Reserved.

当サイトに掲載されている画像・肖像・文章は各会社・個人および新潟市に著作権・肖像権が存在します。これらを権利者に無断で複製・転載・加工・使用等することを禁じます。