SLを運転する

最終更新日:2012年6月1日

SLを運転する/渡辺猛(新栄町)

日本鉄道のOB会新津支部

文集「生きてきた記録(しるし)-国鉄の想い出」から再編集

衝動を抑えつつ発車

 出発信号機が青になった。機関助士が張りのある声で「出発進行」と喚呼した。私は同一語で応答して、おもむろに逆転機を前極端に移し、バイパス弁を閉じ、右手を加減弁ハンドルに置いて発車時刻を待った。助士はブロワ(送風機)バルブを大開して、投炭を続けていた。特に、バック(火室後板より)を重点に甲号ショベル(大きいスコップ)で10杯ほど投入した。
 ホームの旅客用の発車のベルが鳴り出した。時計を見ると、10秒前だ、緊張しながらジッと耳を澄ます。
 ホームの旅客用の発車のベルが鳴り止んだ。前方の出発合図器の白色灯が点灯してブザーが鳴った。すかさず助士が「発車」と大声で喚呼した。私は同一語で応答すると同時に右足で汽笛を吹鳴し、加減弁を2~3ノッチ開放した(補助弁だけ開放できるように、あらかじめその位置をチョークで印をしておく)。
 ひと呼吸おくと機関車が動き出す。ただちに両手を逆転機に移し、地上に対象物を見いだして、勘で逆転機を急速に約15%(約1回転)ほど引き上げる。この扱いが出発の際の衝動を防止する秘訣である。

始発時の機器取扱線図

始発時の機器取扱線図

 動き出してからは、排気音がポッと1回するごとに逆転機を7~8%ずつ引き上げる。本日の牽引両数は34~35両で少し軽いので、35%にセットした。そして両手で加減弁ハンドルを握り、気室圧力計を注視しながら、空転の徴候を察知しつつ慎重に加減弁を増開して満開とした。発車後30秒で速度は14km/hであった。
 発車してからシリンダ排水弁は開放のままなので、気水がシュシュ…と交互に勢いよく吹き出る。前方がよく見えない。1分間で気水を十分に排出する。第2回目の操作は、第1回操作後約10秒を経過して約10秒開放、第3回目の操作は、第2回目の操作後約1分を経過して約10秒間開放する。これで気水の排除は完全である。
・・・(中略)・・・

惰行快調に

 列車は軽快に走り続ける。阿賀野川鉄橋の入口のチェックポイントの運転時分は5分10秒であった。快調である。鉄橋の中ほど速度約68km/hで惰行に移った。まず逆転機を中央近く10%に引き上げる、ついで加減弁を徐々に閉める。閉めたのち気室圧力計指針が次第に降下して約5kg/cm2になったところを見はからってバイパス弁を開放し、つづいてシリンダ排水弁を開放する。さらに逆転機を徐々に前極端に移して惰行扱いは完了した。

新津~京ヶ瀬間運転線図

新津~京ヶ瀬間運転線図

新津~京ヶ瀬間の地図

新津~京ヶ瀬間の地図

ブレーキを操り停車

 助士が「場内注意」と喚呼した。注意信号は速度を45km/h以下に落とさなくてはならない。時速55km/hで0.8kg/cm2の減圧を行った。シューと圧縮空気がブレーキ脚台から排出される音がしてブレーキシリンダ圧力計指針が約2kg/cm2に上昇した。速度がぐんぐん落ち始める。速度計指針が50km/hを指したころ、ブレーキ弁ハンドルを「ゆるめ」の位置に移し、3秒間その位置に置いてから「運転」の位置に移す。これで客車と機関車のブレーキがほぼ同時にゆるんで衝動が生じないのである。

京ケ瀬駅進入の減圧量は0.8kg/cm2、速度30km/hに落ちたところで0.2kg/cm2増圧の「階段緩め1回」そして次第に減速して、ブレーキが完全に緩んだ状態で停止した。運転時間は10秒遅れであった。

ブレーキ操作図

自動ブレーキのしくみ

 自動空気ブレーキ(自動ブレーキと略)は、各車両にある空気タンク(補助空気だめ)からブレーキシリンダに空気を出し入れする弁(三動弁)を運転室からの空気管(ブレーキ管)で間接的に制御するものです。ブレーキ管の空気圧を下げる(減圧する)とブレーキがかかり、空気圧を上げる(増圧する)とブレーキが緩むしくみになっています。

 上の図の自動ブレーキ弁のハンドルを「常用」の位置にすると、ブレーキ管の空気が抜けてブレーキがかかります。このままでは、どんどんブレーキが強くなっていくので、必要なブレーキの強さになったら「重なり」の位置にします。これでブレーキ力が一定となり、速度が落ちていきます。速度が落ちてくると、そのままのブレーキ力では強すぎるので、ブレーキハンドルを「運転」(ブレーキ管を増圧)か「ゆるめ」(ブレーキ管を急速に増圧)の位置にしてブレーキ力を弱めます。今度はどんどんブレーキが緩んでしまうので、必要なだけ緩めたらまた「重なり」の位置にします。この操作を繰り返して速度を制御します。

 ハンドルの位置によってブレーキの強さが決まる電磁直通ブレーキや電気指令式空気ブレーキと違い、自動ブレーキはハンドルの位置だけでなくその位置に止めた時間によってブレーキの強さが変わります。

ブレーキ操作図

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